2013年9月24日火曜日

芸術表象論特講#10


こんにちは。あんなに暑かったのに、朝は少し寒いくらいで、秋に徐々に近づいているのかな・・・と思う日です。
9月18日におこなわれました、「芸術表象論特講」10回目のレクチャーについて少し報告したいと思います。
今回のゲストは、画家の岩熊力也さんでした。



岩熊さんは渋谷生まれで、大学では映画を専攻していたそうですが、2年で中退。その後Bゼミで学んだそうです。2004年には、ポーラ美術振興財団在外研修生としてメキシコシティに滞在されていました。絵画の技術的な教育を受けず、ほとんど独学だそうです。現在は、女子美の洋画専攻で講師もされています。

ご自身のこれまでの作品について、解説していただきながら見ていきました。

最初の個展(1995年)では油絵の作品を展示していたそうですが、油絵はこのときだけだったとのこと。その後からは、ポリエステルにワックスとアクリル絵の具を使用するようになります。
ワックスで描いたところが透過する効果を利用した作品を制作するようになっていきます。
描くモチーフなどは、制作している場所からインスピレーションを得ることが多いそうです。現在は山梨にアトリエを構えているそうで、近くの樹海をモチーフにした作品もありました。


日本人にとって必然的な主題とは何かということを考えたとき、山水画を気にするようになったといいます。
抽象絵画は、ヨーロッパ人にとって偶像が禁止されていたという歴史の流れから必然的に出てきたもので、日本人の宗教概念(多神教的なところ、あらゆるところに神が宿っているアニミズム的な)とは違うのではないかと。そうすると、日本人にとって風景画というのは宗教画も意味するのではないか。そこから山水画ということになったそうです。

風景画などの作品が多い中、《暴力的絵画教室》という映像作品には少し驚きました。
絵画教室の先生(金髪でメガネをかけているセクシーな女性)が、芸術について子どもたちに問います。子どもたちはかなりまじめな返答(例えば人は何故絵を描くのかという質問に「正義を実現させるためだと思います。絵筆の力で社会の不正を正したいのです」)をします。しかし、先生は「オリコウサンばかりでつまらない」と言い、暴力的な行為に出ます。一見するとショッキングですが(それも絵の具が流れていくのでさらにショッキングに見えます)、先生の問いかけや子どもたちの返答、芸術家に対する社会とのつながりなど、考えさせられてしまうものでした。
この作品はシリーズで、「暴走したまま終わってしまった」そうですが、ぜひ続きが見てみたいと思いました。


最近は、死者(犯罪者、加害者、行方不明者、身近な人)の肖像画を描いて水で流し、洗濯物のように干す作品《LAUNDRY》を制作しています。麻布に描かれた肖像画に水をかけて流し、たわしでこすって・・・・という制作過程の映像も見せてくださいました。


近く第一生命南ギャラリーにて個展を開催するそうです。
第一生命のビルは、戦時中は陸軍に接収され、戦後はGHQによって接収されていました(1952年返還)。社長室はマッカーサー元帥の部屋として使用されていたそうです。ここには民政局が置かれ、現在の日本国憲法の草案が作成されたと言われています。
この展示では、A級戦犯者の肖像画を使ったそうです。

また、来年の1月に開催される個展で展示する映像作品も見せていただきました。

たくさんの作品を見せていただき、学生たちにもいい刺激になったと思います。
開催される個展に行き、直に作品を見て欲しいと思います。



開催される個展はこちら
「LAUNDRY」
 2013年9月30日~11月1日 
第一生命南ギャラリー
http://www.tokyoartbeat.com/event/2013/4059

岩熊力也さんのHP
これまでの作品が掲載されています


それでは。

2013年9月6日金曜日

芸術表象論特講 # 9


こんにちは。夏休みも終わり、今日から授業がはじまりました。
7月24日におこなわれました、「芸術表象論特講」9回目のレクチャーについて少し報告したいと思います。
今回のゲストは、アーティストの眞島竜男さんでした。



眞島さんはロンドンのGoldsmiths Collegeで学んだ後、スタジオ食堂に参加。「六本木クロッシング2007:未来への脈動」など多くの展覧会に出品されています。

1回目の小林晴夫さんのレクチャーで「blanClassでおなじみ」というアーティストとして眞島さんの名前があっていました。


レクチャーでは、Goldsmiths Collegeのことや、学生の頃のイギリスのアートシーンについて、ご自身のこれまでの作品と現在の作品のお話をしてくださいました。

93年の暮れに日本へ戻って来た眞島さん。94年に水戸芸術館でおこなった展示が最初だそうです。そのときの作品は、世界堂で購入したデッサン用のヴィーナスの石膏像(高さ1メートル)を「天ぷら」にした《衣付きソーセージ》。実際に、ヴィーナスに小麦粉と卵と牛乳を混ぜた衣をつけて、ドラム缶に油を入れて揚げたそうです。

学生だった92年頃、イギリスでの授業では批評理論のレクチャーや学生のプレゼンテーションの方に関心があり、手を動かさない日々が続いていたそうです。しばらくしてから、ようやく自分の作品を作れるようになり、それが、ブリテン社(イギリスのおもちゃ会社)が出している角の生えた動物のフィギュアを「天ぷら」にするというもので、「天ぷら」の作品の始まりだったそうです。同じ頃、初めて学内での作品発表もおこないました。アーティストとしてのキャリアの第一歩は、ここになるそうです。

「天ぷら」作品の他に、映像作品もあります。《ディナー・パーティー》は、イギリスの4人の俳優に、アジア風の食卓を囲んでたわいのない会話をしてもらうというものでした。これは、Goldsmiths Collegeでおこなわれていたプレゼンテーションやディスカッションの授業が影響しているそうです。

2010年からパフォーマンスの仕事が増えてきたそうです。blanClassではパフォーマンスの作品をいくつか発表されています。
「鵠沼相撲|京都ボクシング」は岸田劉生が残した日記を下敷きにしたフィクションの日記を朗読するというものです。眞島さんは、岸田劉生が京都に引っ越してから、たくさん絵を描いていると思っていましたが、日記を読んで実はそうではなく違うこと(浮世絵を買いあさったり、骨董を集めたり、茶屋遊びをしてみようとしたり)をしていたことに面白みを見つけ出したとのことです。そこから「岸田劉生が京都へ行ったときに、たまたまボクシングを観戦し、それをきっかけに油絵の制作に立ち返ってくる」という勝手な妄想を作りあげ、それをイメージとしてパフォーマンスをおこなったそうです。

小林晴夫さんのレクチャーでも見せていただいたパフォーマンス《右/左》。眞島さんは右と左の区別がつかなくなることがあるのだといいます。「右寄り」や「左寄り」といった呼び方など、「右と左」にまつわるモチーフをパフォーマンスにしたのもので、200個くらい作った「イカリング」と「オニオンリング」の縫いぐるみを仕分けて輪投げのように飛ばす、というものもあるそうです。

眞島さんの最近の活動としては、参議院選挙まで毎日踊る《今日の踊り》があります。
これは、20121217日から選挙の前日720日まで毎日2分間踊り、それをYouTubeにアップしていくというものです。きっかけは、昨年の衆議院選挙の際に、Ustreamで《踊ります》というイベントをしたことでした。選挙に行く人が増えて投票率が上がったらいいな、という素朴な願いと、選挙という制度と自分が何かをすることが繋がると面白いのではないか、という期待があったそうです。
眞島さんはダンサーではありません。しかし、特別な準備なしで始められるところから、踊りを思いついたそうです。また2分間というのは、もともと選挙に行って来たという報告を1つもらったら1分間踊るということにしていたが、1分では練習には不十分。かといって長過ぎると毎日続かない。2分くらいの長さがあると、踊りから意味から離れていき、動きがただの動きになる。それにトレーニングにもなる、ということでその時間となったそうです。

室内での撮影もありますが、屋外で撮影しているものも多くあります。他の人たちに絡まれたりしないのか……と思いきや、意外とそういうことはないそうです。

「毎日続ける」というのは新しい試みで、当初はこれが何かの形になるとは思っていなかったそうです。しかし、ある程度の数をこなしていくと、まとまって見えてくるものがあり、新しい発見があったそうです。ずーっと続けることもできるけれど、あるところでいったん区切りをつけてみる。今回は、参院選がその区切りだった。ある程度の時間をまとまって見渡せるようになると、そのなかでできあがった形を実感することができる。毎日、繰り返していくことで、自分自身の政治に対する意識や、見知らぬ人々との関係の仕方が見えてくる。そして、自分が把握できる範囲以外の人たちにもアプローチしているけるかもしれない、という想像もできるようになったと、眞島さんはおっしゃっていました。


選挙が終わっても、踊りは撮り続けているそうです。レクチャーの後、大学内でも踊りの撮影をおこないました。

「毎日続ける」のは、簡単そうで意外と難しいです。途中で嫌になったりすることもありますが、根気よく続けていくことで蓄積されるモノや、ある程度の量になることで見えてくるものがあるのだと思います。眞島さんのレクチャーと作品を見て、学生たちも感化されればと思いました。


眞島さんのいくつかのパフォーマンス映像はレクチャーでも見せていただきましたが、見たことのない方、もう見たことある方も、ぜひ見てください。

《今日の踊り》

blanClass
鵠沼相撲|京都ボクシング」
「右/左」


それでは。


※「芸術表象論特講#8」小泉明郎さんの報告は、後日掲載致します。