2014年10月15日水曜日

芸術表象論特講#17

こんにちは。台風がさって少し暑いかなと思ったら、肌寒く、何を着たらいいのかわからなくなります。
10月1日におこなわれました、「芸術表象論特講」17回目のレクチャーについて少し報告したいと思います。
今回のゲストは、アーティストの白川昌生さんでした。



白川さんには、昨年11月にもこの授業でレクチャーしていただきました。その時はご自身のこれまでのことを中心にお話ししてくださいました。そのことも、このブログに掲載させていただきました。
今回のレクチャーでは、今年の3月15日から6月15日まで群馬県のアーツ前橋で開催された「白川昌生 ダダ、ダダ、ダ 地域に生きる想像☆の力」を中心にお話していただきました。

アーツ前橋は昨年オープンしたアートスペースです。美術館とほぼ同じ機能を持っていますが、美術館とは呼ばずに“アートスペース”としています。これには、前橋市の政治的な問題が絡んでいるそうです。
現代美術というと、一般の人にはわかりにくいと思われています。そのため、市の建物で展示することが税金の無駄遣いだと思っている人もいるそうです。なので、年間で何人の入場者がいたかという数字の問題はついてまわります。使用している建物は、かつて西武デパートだった別館を利用しています。これは、20年程前に西武が撤退してから何もテナントが入らず空のままだったのを、前橋市が買い上げて文化施設へしました。建物は本館と別館があり、本館の地下は地域のスーパーに貸し、2階を図書館と公民館に、他の階は地域にある医療系専門学校へ貸出しました。別館は長らく手付かずでいましたが、それをアートスペースとして再利用することになります。内装のデザインコンペはもともと内々でおこなうところを、現在のアーツ前橋の館長になる方や他の方々からの意見によって、公開となったそうです。
年に2回、春に作家の個展、秋にグループ展を開催し、その間はワークショップなどをおこなうことになっています。収蔵作品もあり、地域で住んでいる作家の絵画作品を中心としているそうです。

実際に白川さんの展示の写真を見せていただきながら、作品の解説なども交えてお話ししてくださいました。

白川さんは、アートの役割を次のように語っていました。
人間の記憶というものは、モノや言葉というのがないと残らないので、その役割のひとつとしてアートがある、そういう働きが出来るのではないかと思っている。絵を描いたり彫刻したりということも、もちろん造形的な味もあるけれど、何か感覚的な、そういうものを残す為の手段として作っている。人間は何も対象がない状態では、記憶を呼び戻したりすることはできないんじゃないか。だからモノがあることで初めて過去が蘇ったりする。例えばマルセル・プルーストではないが、マドレーヌを口にいれたらその味とともに自分の小さい時の思い出が蘇るではないけれど、それはモノがないと蘇らないってことでもある。記憶は忘却と隣り合わせだから、そういうことがなければ蘇ってこないと思う。美術作品の役割はある種、そういうところがあると思っている。絵画でもなんでもいいけれど、見て初めて喚起される、見なければ喚起されない。そいうモノとしてのアートというものはあると思います。
また記憶ということについて、征服する人や支配者というのは、そういうことをよく知っているから、弱い人の心の支えになるような、例えば思い出の家や写真とかそういうモノを取り上げて破壊する。そうするとで、その人にとっての記憶や過去が無くなってしまい、思い出そうとしてもリアルな形で蘇ってはこない。思い出そうとしても、ぼわーっと何かがあるけれど、リアルな形で蘇らせるにはやはりマテリアルなモノが必要になってくる。それを奪ってしまうというのは暴力だけど、戦争は相手の国を殲滅させようとすることだから。その殲滅させてしまうということは、相手の国にある記憶みたいなものをみんな消してしまうということなのではないか、とおっしゃっていました。

今までの作品の中から、いくつかピックアップしていただいて、解説していただきました。写真だけではなく、映像もいくつか見せていただきました。

今の時代、絵画とか彫刻とか数千年前から続いている古いメディアもあり、それは無くならないで、これから先も絵画とか彫刻とかは続いていくのだと思います。その他の新しい様々なメディアは時代とともに増えていき、それを今に生きている人たちは同時に使っていく。今の若い人たちには、こだわらずに有能なメディアで表現してゆけば良いのではないかと思います。というようなことを、白川さんは学生たちにおっしゃってくださいました。

白川さんの作品は、自分が住んでいる場所と自分自身のこと、その場所に住んでいる人々。群馬という場所とそこに住む自分を含めた人々との関わりが作品になっています。そして、白川さんの作品を見ることで、通りすぎて行ってしまう人が地元の記憶を呼び覚ます。その場所で活動する意義はここにもあるのではないでしょうか。学生たちは、アート作品を制作することとは何かを、考えるきっかけになったのではないでしょうか。


アーツ前橋のHPはこちら



それでは。

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