2014年12月1日月曜日

芸術表象論特講#20

こんにちは。いちょう並木では、落ちたいちょうの葉に雨が降り注いで、さらに黄色が鮮やかに見えます。
11月12日におこなわれました、「芸術表象論特講」20回目のレクチャーについて少し報告したいと思います。
今回のゲストは、アーティストの増本泰斗さんでした。



増本さんは、東京工芸大学の写真学科出身なのですが、学生時代は、写真を撮らずに絵ばかり描いていたそうです。レクチャーでは、入学する前や在学中に描いていた絵を見せてくださいました。
学校の授業にあまり出ないで、グラフティばかりを描く日々。その頃は特にアーティストになる気はなく、現代美術にもあまり触れたことがなかったそうです。

大学院生の頃に、杉田先生が主宰しているart&riverbankで個展(注1)をおこなったことをきっかけに現代美術に触れるようになり、興味をもつようになったそうです。大きな転機となったのは、個展の次に参加したグループ展でした。もともと、ポルトガルのリスボンで開催する予定だった展覧会でしたが、現地の都合でキャンセルとなり、その代わりに日本で開催された展覧会(注2)でした。
そんなことがなければ考えることがなかったポルトガルについて、展示という機会を通じて考えたり、調べたりしながら、思いを馳せるようになり、次第に行った気になってきたといいます。実際に発表した作品も、行ってもいないのに行ったかのように架空の旅行をテーマにしたそうです。行ったつもりになって書いた日記。合成してつくった観光写真など。そのときの生活やおかれている状況をそのまま展示したかたちでした。
そうした経験は、ある意味における「適当」の良さ、美術における形式や文脈などの「枠組み」にこだわらない良さを感じたそうです。最初の個展ではミニマルな作品をかっちりと作る感じだったこともあり、正反対のやり方もあるのだと発見があったそうです。

大学院修了後は、MAUMAUS(注3)というインディペンデントのアート・スクールが主催するレジデンスを利用して実際にポルトガルのリスボンへ行くことになりました。当初は、ポルトガル語はおろか、英語も満足に話すことができなかったのですが、それでも積極的に話しかけていた増本さん。自分自身は相手にいっぱい話しかけてコミュニケーションが取れた気でいたけれど、周りからしたらこの人何言っているの・・・状態が1年間ぐらいは続いていたそうです。その頃につけていた作品としての絵日記を見せていただきました(注4)。コミュニケーション不全と、奇跡的に通じ合う瞬間を通して、異なる者やコトについて考えさせられる良い機会となったそうです。
また、ポルトガル滞在中の2007年は、ドクメンタとヴェネツア・ビエンナーレ、ミュンスター彫刻プロジェクトの3つの展覧会が同時に開催される特別な年だったそうです。日本料理屋のアルバイトだけで生計を立てていたので、あまりお金がなかったそうですが、どうにかしてでも行こうと思い、友人と一緒に、ヨーロッパ版の青春18切符のような1ヶ月フリーパスをベルリンの偽造チケット屋から購入し芸術祭を見る旅にでかけました。旅行自体は2週間ぐらいでしたが、有名な作家の作品だけでなく、同時代の雰囲気を感じることができたのが良かったそうです。

その後、日本へ帰国して2010年に京都へ移り住みます。京都では、ある物件の家賃を複数でシェアすることで集まっているアーティスト・コレクティブ「Collective Parasol(注5)」をはじめます。「まとめることをやめること」をポリシーに、やりたいと思う企画は、メンバーの承認や合意は必要なく、日程さえ合えば勝手に実施することができるというような集まりだったそうです。テート・モダンで開催された「No Soul For Sale(注6)」という展覧会にも呼ばれたりもしましたが、結局一年半ぐらいで物件を手放してしまいそのままCollective Parasolは解散しました。
また、京都の専門学校で非常勤講師をしているので、そこでの授業を記録して公開しています(注7)。授業という枠組みを使って、その時々に気になることを学生と一緒に考えながら実験したりしているそうです。例えば、戦争のイメージを別の角度から考えようとする授業(注8)や、原発作業員について身体的なアクションを通して考えようとする授業(注9)などを紹介いただきました。
さらに、増本さんのひいおばあ様がヒロシマの原子爆弾投下の際に、爆風で倒れてきた衣装箪笥の下敷きになった体験をもとにした「Protection(注10)」という作品の記録映像を見せてくださいました。
その他には、「予言と矛盾のアクロバット(注11)」という、「矛盾」と「直感」を大切するプラットフォームや、杉田先生と不定期に行っている実践「ピクニック(注12)」など、これまでの活動や継続中の活動についてもお話ししてくださいました。

グラフティを描いていた学生時代から、現在の活動に至るまでのいくつかの転機を見ていると、そこには、学生たちにとって作品と向き合うための、また別の可能性が示されていたのではないかと思います。



増本さんは、最近本を自費で出版されたそうです。こちらから購入できます。

その他、増本さんの詳しい活動については、HPなど下記URLなどで確認することが出来ます。


文中の注釈についてはこちらを参照ください。
(注1)最初の個展「All Notes Off」
https://plus.google.com/u/0/photos/101989624643088460124/albums/5827421502690253505

(注2)ポルトガルで開催するはずだった展覧会がキャンセルになったため日本で開催した展覧会
「do fim ao fim」
https://plus.google.com/u/0/photos/101989624643088460124/albums/5827422045562825601

(注3)MAUMAUS
http://www.maumaus.org/

(注4)ポルトガル生活の絵日記「Vinho da Casa de Banho」
https://plus.google.com/u/0/photos/101989624643088460124/albums/5630512897900413377

(注5)Collective Parasol
http://collective-parasol.blogspot.jp/

(注6)No Soul For Sale
https://plus.google.com/u/0/photos/101989624643088460124/albums/5821946749670134225

(注7)授業自体がひとつのアートの実践「Grêmio Recreativo Escola de Política」
http://gremiorecreativoescoladepolitica.org/

(注8)戦争のイメージを別の角度から考えようとする授業
https://vimeo.com/37885310

(注9)原発作業員について身体的なアクションを通して考えようとする授業
https://vimeo.com/109844456

(注10)Protection
https://vimeo.com/18836555

(注11)予言と矛盾のアクロバット
http://aaccrroobbaatt.com/

(注12)Picnic
https://www.facebook.com/pages/Picnic/259375414100782

それでは。

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