2014年12月11日木曜日

芸術表象論特講#21

こんにちは。いつもいる館から別の館へ移動するために外へ出るとき、今までは平気だったのが上着を着ないと寒くてしかたがありません。
11月19日におこなわれました、「芸術表象論特講」21回目のレクチャーについて少し報告したいと思います。
今回のゲストは、アーティストの田中功起さんと冨井大裕さんでした。

▲左から冨井さん、田中さん

2011年にCAMPで「アートを実践することについて」というトークイベントで、杉田先生、田中さん、冨井さん、奥村雄樹さん(アーティスト)の4人が参加しました。その際に続きをしようと話していたこともあり、今回のレクチャーにお招きしたと杉田先生がおっしゃっていました。(残念ながら、奥村さんは海外に行っているためお招きできませんでした。)

レクチャーとしては、杉田先生を交えて3人でのトークとなりました。ブログでは、はじめに田中さんと冨井さんによる活動紹介がおこなわましたので、そちらを中心に書きたいと思います。

冨井さんは、昨年まで芸術表象専攻の「アート・プラクティス演習ⅡB・C」という授業をご担当してくださっていました。
冨井さんの作品は主に立体物で、“日常のモノをそんなにあり方を変えずに見せる”というスタンスで制作しているそうです。
例えば、バケツとぞうきんを使って、その属性は変えずにバケツとぞうきんではないけど、バケツとぞうきんみたいな・・・・・。
最近では、慶応義塾大学アート・センターでショーケースのプロジェクトに参加しています。作品は消しゴム3個を組み合わせたものと、台座。105個あるけれど、どれが本物なのかということは次第にどうでもよくなって、1個が良いのかとかそういうレベルでもなくなる。では、私たちはいったい何を見ているのかということになる。そして、印刷物は記憶なのか何なのか。展示しているものは記録なのか、それとも現実なのか・・・・。
この展示では、告知するための印刷物を作っていないそうです。そうなると、はたして人が来ているのかわからないそうですが、稀に来て置いてある印刷物を見ると数が減っているので、その減る量で人数をカウントしているそうです。そこに置く印刷物は、置いていると次第にしなってしまってもピタッとなる特別な台座を作ってもらい設置しているとのことです。

実際の現場で展示をするという人の理想と、
印刷物は配布されてその役割が終わるのではない別の理想と、
展示は印刷物があることで人と会話ができているのか、現場のものではないと会話ができないのか、
展示の翻訳の問題であって、その辺のことをみんなでやっているという感じだとおっしゃいました。
立体の作品もしながら、それがどう受け取られるかということを、印刷物などの関わりから見ようとしていると、冨井さんはおっしゃっていました。

田中さんは、昨年のヴェネチア・ビエンナーレ日本代表(キュレーター蔵屋美香氏)として参加、特別表彰を授賞しました。また、2012年度の「芸術表象論特講」特別版にゲストとして来ていただいたことがありました。
最近の活動としては、ニューヨークで開催されたフリーズ(Frieze)のアートフェアにプロジェクトとして参加したそうです。アートフェアとは、通常ギャラリーの寄り合いみたいなもので、世界中のギャラリーが集まってブースを借りて作品を売るというシステムです。フリーズのアートフェアはロンドンから始まりました。フリーズは雑誌(同名の『Frieze』)を刊行しています。単に売り買いだけではどうだろうと思っているフリーズのディレクターたちが、ギャラリー・ブースとは別の独立したプロジェクトとしてキュレーターに企画を任せます。。これが田中さんが参加した、屋内外問わずの比較的自由にアーティストのプロジェクトを展開する「フリーズ・プロジェクト」です。
ランドールズ島の公園内に一時的に設置されたテントが、アートフェアの会場になります。田中さんはプロジェクトをおこなうにあたり、通常はアートフェアに来ないような、このランドールズ島にまつわるコミュニティとか、実際にそこで働いている人びとや歴史に関係する人を毎日一人ずつ呼べないかと考えました。
1日目、実際にランドールズ島にある消防士のためのアカデミーで教官をしている消防士を呼びました。彼には実際に現場に出ていたときの話やアカデミーでの話などを、会場の方にしてもらったそうです。
2日目、詩人を呼びました。彼女には詩人サミュエル・グリーンバーグの本に直接言葉を書き込みながらグリーンバーグの詩をリライトしてもらいました。グリーンバーグは、島にあった精神病院(現在ある精神病センターとは違う建物)で亡くなるまで詩を書き続けました。存命中の彼は無名でしたが、ハート・クレーンという詩人がグリーンバーグの詩を再構築し自分の詩として発表したことにより、名が知られるようになりました。
3日目、サックスプレイヤーの方を呼びました。フリーズの隣にあるスタジアムで、昔ジャズのコンサートがおこなわれていたそうです。1930年代に実際にあったコンサートの映像がYouTubeにあったので、その中の曲をサックスプレイヤーの方に吹いてもらおうとしました。しかし、主催者側からは、音を出すことに難色を示されたため、サックスプレイヤーの方には、サックスではなく口笛を吹いてもらったそうです。しかも、そのプレイヤーの方がとても口笛が上手だったとか・・・。1時間に1・2回ほど吹いてもらい、お客さんのなかには、彼の口笛につられていっしょに口笛を吹いた人もいたそうです。
4日目、実際に公園内を常日頃走っているランナーの方に来てもらいました。その方はランニングのインストラクターもしていて、この島でそうしたランニングのコミュニティに関わっています。会場内でストレッチをしてもらい、実際に会場の外を走ってもらいました。
5日目、公園課の職員で島の歴史をよく知っている方を呼びました。彼はこの島で20年ほど働いているそうです。彼も1日目の消防士の方と同じように、会場に来ていたお客さんに島の歴史、島のさまざまな施設や問題点などについて話したそうです。
田中さんは期間中、毎日朝から晩まで通い、その日のプロジェクトを撮影して編集して翌日会場に設置しているモニタで上映されていたそうです。お客さん全体の1割もプロジェクトに気づいていなかったと思うとおっしゃっていました。実際におこなわれた様子をまとめた映像も見させていただきました。このプロジェクトは、アートフェアという場がそもそも売り買いと社交がすべてであり、そこに別の目的をどうやったら入れられるか、という実験だったということです。そうした所に別の目的を持った存在がいるとどんな影響があるのか・・・・など、そういうことを考える場であったとおっしゃっていました。

レクチャー後半の3人でもトークは、田中さんのアートフェアから、自分たちの立ち位置のようなこと。大きなアート展覧会みたいのでおこなわれる、内側からの批判と外側からの感覚など・・・・。作品を作るということだけではなく、見せること、それがどのようになっているのか、自分たちはどう思うのかということを、お話ししてくださいました。






既成概念の展示という手法ではない、別の方法で表現を追求しようとしている2人のアーティストの活動から、彼らを取り巻くことについて、お話してくださいました。学生たちにとって、作品を制作するということだけではないことを、考えるきっかけになったのではないでしょうか。


田中さんのHPはこちら

冨井さんのHPはこちら


それでは。

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