2015年7月2日木曜日

芸術表象論特講 #4

芸術表象論特講 #4

5月27日に行われた芸術表象論特講
第4回目のゲストはプロマジシャンの南海子(なみこ)さんです。



南海子さんは何と女子美術大学の卒業生、それも付属中学・高校からという根っからの女子美生です。全国各地でのマジックショーへ出演以外にも、劇場版・スペシャルドラマ版『TRICK』、ドラマ『ジョーカー 許されざる捜査官』のマジック指導や、NHK教育『一期一会 キミにききたい!』、『「ぷっ」すま』などへのTV出演など、マジシャンとして様々なメディアで活躍されています。


今回のレクチャーは「マジックを魅せる」というタイトルのもと、普段使用している教室ではなく、ステージのあるスタジオ教室にて実際に南海子さんによるマジックショーを織り交ぜながら行われました。
 
暗転ともに教室の後方から登場した南海子さんは、ステージに上がりながら炎のマジックを披露すると、会場の雰囲気は一気に変わっていきます。続けて新聞紙を広げてビリビリに裂いて丸めた後、南海子さんがおまじないを掛けて広げると、何と新聞紙は元どおりになっており、そこには女子美生へのメッセージが!


簡単な挨拶のあと、客席から学生の一人にステージへ上がって貰い、コーラのマジックを披露して頂きました。ベコベコにへこんだコーラの缶が空っぽなのを確認した上で、学生が息を吹きかけると一瞬で缶の蓋がみるみるうちに膨らんで未開封の状態になり、会場からはどよめきの声が挙がります。そしてプシュッという炭酸の音と共に蓋が開き、学生が持つグラスの中に本物のコーラが注がれていきます。果たしてコーラはどこから湧き出てきたのでしょう?
コーラの缶が空であることを確認する聴講生
(この後、一瞬にしてコーラが開ける前の状態に)

続いてはパンのマジック。今度は別の学生に手伝って貰いながら、軽快なトークと共にショーが進んでいきます。まずはパンを紙袋に入れて学生に持っていて貰い、次にピーナツバターとジャムの瓶をそれぞれイラストが描かれた紙袋に入れて持たせます。そして、まずはステージの学生におまじないを掛けて貰い、次に会場の全員でおまじないを掛けます。すると2回掛けたので入れ替わったものが元通り…ではマジックにならないので、3度目の正直でもう一度おまじない。すると、別々の紙袋に入っていたはずのピーナツバターとジャムがいつの間にか入れ替わっており、会場からは拍手が溢れ出ます。
最後に残った「パンの袋」にも驚くべき魔法が...
さて、一番最初に学生に持たせた“パンを入れた紙袋”が残りましたが、これには果たしてどんなマジックが隠されているのでしょうか?(答えはぜひ南海子さんのショーでご覧下さい)



レクチャーの中盤では、スライドを使いながら南海子さんがマジックの世界に入るきっかけ、女子美付属そして大学時代のこと、学生時代に学んだ中でマジシャンになってから役に立っていることなどをお話して頂きました。

南海子さんは、幼少の頃からマジックが大好きだったそうです。大きな転機として付属高校の頃、杉並校舎からの帰りに新宿高島屋へ寄った際、おもちゃ売り場にあったマジックショップで、南海子さんが小さい頃に見て感激したマジックを実演販売している現場に遭遇し、そこから再びマジックの虜になったと話されていました。

付属高校三年生の時に、運動会の着付けリレー(女子美付属運動会の恒例競技で、先生をどんどん仮装させてパフォーマンスを行う)では、先生をプリンセス天功に仕立てて、最後に消してしまうイリュージョンを行い、見事に最優秀賞を獲得されています。


手作りのマジック道具で行われたイリュージョン、見事に真っ二つ。
(大掛かりなマジックはイリュージョンと呼ぶそうです)


また、学園祭の前夜祭では体育の先生を真っ二つにするマジックを披露。マジックショップの方に熱心にお願いし、特別に胴体切断マジックの仕掛けが書いてある古い本を見せてもらい、写した図面から装置を自分で手作りしたそうです。

他にも送別会で剣道の先生を竹刀で刺すイリュージョンを披露するなど、高校生の頃から大掛かりなマジックに挑戦していた南海子さんは、結構人見知りだったそうですが、マジックを続けているうちに段々人前で話したりパフォーマンスを行うことにも慣れてきたそうです。また、パフォーマンス自体は3〜4分で終わってしまうものの、コツコツと時間を掛けて事前準備をすることが楽しく、そういう点でも美術の作品制作と通じるところがあると仰っていました。

大学では工芸学科で陶芸を専攻しており、視覚心理学の授業が大好きで、単位取得後も何度も聴講されたそうです。錯視を利用した作品を陶芸でも制作されたことがあり、今回のレクチャーでも錯視を利用した「おみやげマジック」を学生にプレゼントして頂きました。また、マジシャンとして仕事する際に必要なチラシやポスターなどは、大学時代にコンピュータの授業で習ったPhotoshopやIllustratorを用いて製作されているそうです。

こうしたデザインは人に頼むと自分のイメージ通りに作るのが難しいそうです。
レクチャーの後半では、卒業後に再会した女子美付属時代の同級生で、
現在デザイナーをされている方に依頼した名刺も見せて頂きました。

イメージしていたもの以上の素敵な名刺に仕上げてくれたそうです。


前半に見せて頂いた「ピーナツバターとイチゴジャムのマジック」では、それぞれの紙袋にイチゴと落花生のイラストが描かれています。これは南海子さんによるアレンジで、元々は単純にピーナツの「P」とジャムの「J」のアルファベットが紙袋に書かれていたものを、子どもやお年寄りにも分かりやすくするためにイラストに改良されたそうです。既製品のマジック道具などのデザインは、自分のキャラクターや世界観に合わないものも多く、南海子さんは道具を見た時の印象を大切にして、使用する道具や小物にも気を配っていると話されていました。

今回のレクチャーのタイトル「マジックを魅せる」には、“見”ではなく魅了の“魅”が使われています。これは南海子さんがマジシャンの先輩から教わった言葉だそうで、マジシャンには段階があり、マジックを知る→マジックの仕掛けを知る→練習をする→人前で見せる→一通り演じられるようになるまでが出来てはじめて「見せる」、「見せる」から「魅せる」に昇格させるためには、自分が今まで積んできたマジック以外の要素が必要になるそうです。南海子さんがマジックの世界に入って10年経った今、美術の作品づくりと同じように、技法などをもう一度しっかりと基礎から勉強し直し、どうやって自分のものにして行くか、どうやって自分らしさを出して行くかということを日々考えていると仰っていました。


この他にも、各所にマジックの実演を挟みながら行われたレクチャーには、聴講生も引き込まれていました。一見すると美術やアートと距離があるようなマジックの世界ですが、プレゼンテーションの技術や話術、デザインや視覚的要素など共通点も多く、同じ女子美生として先輩でもある南海子さんのお話はとても参考になったと思います。


レクチャーの中でもお話があった、南海子さんの公式サイトはこちらです。
女子美の卒業生で、現在ウェブデザイナーとして活躍中の方が手がけました。
素敵なデザインと見た人を楽しませる仕掛けも多数あるので、ぜひ一度訪れてみて下さい。
http://namiko-magic.com/